蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



絢乃は小さく叫び、ぐいと体を捻った。

・・・こんな往来で、こんな姿を人目に晒したくはない。

と慧の肩を押しやろうとした、その瞬間。



「静かにしろっ!」



耳元で、慧が押し殺した声で言う。

その声の鋭さに、絢乃はびくっと背筋を強張らせた。

・・・見ると。

慧は真剣な、鋭い瞳でじっと絢乃を見つめている。


「・・・で、でも、大丈夫だから・・・っ」

「意地を張ってる場合じゃないだろ? いいから大人しくしてろ!」


慧は低く鋭い声で言う。

・・・いつになく固い、その声。

絢乃を見つめる、真剣な───心配そうな、瞳。

慧の気持ちが瞳越しに流れ込み、絢乃は息を飲んだ。

・・・慧は心から、自分を大事にしてくれている。

その真っ直ぐで真摯な心に、胸の奥が震える。

しばらくの沈黙の後、慧はひとつ息をつき、口を開いた。


「・・・タクシーで帰るよ、アヤ」

「・・・うん・・・」

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