蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
10分後。
二人は宮崎平に向かうタクシーの中にいた。
シートに寄りかかった絢乃の隣で、慧が気遣わしげな視線を向ける。
「・・・さっきは怒鳴ってごめんね、アヤ?」
───その、どこか痛ましげな瞳。
慧にこんな瞳をさせたのは、自分だ。
絢乃はふるふると首を振り、そっと目を伏せた。
「ううん。・・・私こそごめんね。せっかく夕飯食べて帰ろうと思ってたのに」
絢乃は素直に言い、俯いた。
・・・慧は何も悪くない。
慧が怒鳴ったのは、自分を心配したからだ。
慧の気持ちは、絢乃も痛いほどにわかっている。
「怒鳴ったお詫びに、帰ったらグラタンを作ってあげるよ」
グラタンは絢乃の大好物だ。
はっと顔を上げた絢乃に、慧はいつもの優しく穏やかな笑みを浮かべる。