蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・え、いいよ、そんな」
「遠慮しないで。おれも食べたい気分なんだ」
慧はくすりと笑い、絢乃を見た。
・・・絢乃を安心させるかのような、大人びた穏やかな微笑み。
慧の笑顔に、絢乃はなぜか胸がドキッとするのを感じた。
思わず視線を逸らした絢乃に、慧は続けて言う。
「足はどう? 痛む?」
「ちょっと痛いけど、大したことないよ」
「・・・そう。ならよかった」
絢乃の言葉に、慧はほっとしたように肩を下ろした。
足の痛みはまだ続いているが、さほど酷くはない。
一晩ゆっくり休ませれば大丈夫だろう。
・・・多分。
それにしても・・・
慧が怒ると怖いのは知っていたが、怒鳴られたのは初めてだ。
これまで知らなかった、慧の一面。
慧はいつも絢乃に優しく接してくれるが、絢乃の知らない一面もあるのだろう。
やはり兄妹といえど、お互いの全てを知っているというわけではないらしい。