蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
タクシーは明治通りを抜けた後、首都高を走っていく。
絢乃はちらりと隣に座った兄を見た。
・・・その綺麗な瞳に、街の灯りが映っている。
しばしの沈黙の後、慧が景色を眺めながらゆっくりと口を開いた。
「綺麗な夜景だね」
「・・・うん」
「東京って、夜でも明るいよね。夜なのに、夜じゃない。まるで白夜みたいだ」
慧は静かな声音で呟くように言う。
・・・白夜。
確かに、そんな感じもする。
と軽く頷いた絢乃に少し笑いかけ、慧は続ける。
「ちなみに白夜の逆って何か知ってる?」
「・・・ううん、知らない。何ていうの?」
「『極夜』って言うらしいよ。一日中、陽が上らずにずっと夜が続く。・・・白夜と極夜だったら、どっちの方がいいだろうね?」