蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



タクシーは明治通りを抜けた後、首都高を走っていく。

絢乃はちらりと隣に座った兄を見た。

・・・その綺麗な瞳に、街の灯りが映っている。

しばしの沈黙の後、慧が景色を眺めながらゆっくりと口を開いた。


「綺麗な夜景だね」

「・・・うん」

「東京って、夜でも明るいよね。夜なのに、夜じゃない。まるで白夜みたいだ」


慧は静かな声音で呟くように言う。

・・・白夜。

確かに、そんな感じもする。

と軽く頷いた絢乃に少し笑いかけ、慧は続ける。


「ちなみに白夜の逆って何か知ってる?」

「・・・ううん、知らない。何ていうの?」

「『極夜』って言うらしいよ。一日中、陽が上らずにずっと夜が続く。・・・白夜と極夜だったら、どっちの方がいいだろうね?」



< 378 / 438 >

この作品をシェア

pagetop