蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───その日の夜。
マンションに戻った絢乃は、夕食の後、エプロンを身に着けてキッチンに立った。
・・・まるで気乗りはしないが、仕方がない。
それにこの間江の島に行った時、食事も経費も全て卓海が持ってくれた。
そのお返しということで、今回だけ特別に作ってみよう。
絢乃は冷蔵庫を開け、食材と調味料を取り出した。
と、そのとき。
リビングにいた慧が、不思議そうな顔で絢乃のもとへと歩み寄ってきた。
「何してるの、アヤ?」
「・・・例の鬼から弁当を作ってこいと指令が出まして」
「え、なんで?」
「私にもよくわからないけど。ま、この間の江の島のお礼も兼ねて作ろうかなって・・・」
絢乃の言葉に、慧は腕を組んでキッチンに置かれた食材を見た。
・・・その、鋭い瞳。
まずいことを言ったかな、とビクビクする絢乃の前で。
しばしの沈黙の後、慧がゆっくりと口を開いた。
「───ねぇ、アヤ。O157って普通にその辺にいるのかな?」
「は?」