蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
雅人はロビーを歩きながら、社員の顔を一人ずつ脳裏に思い浮かべた。
正直、第一の課員の中には、雅人の後を継げるレベルの人間はいない。
そして運用課にも、そこまでの人材はいない。
技術的、能力的に最も向いていると思われるのは絢乃だが、雅人の後を継げるかというと年齢・経験からして難しいだろう。
となると。
「・・・加納か?」
雅人は卓海の顔を脳裏に思い浮かべた。
あの男であれば、物流システムを任せられるだろう。
だが卓海は卓海で、貿易システムを抱えている。
二つのシステムの面倒を同時に見るとなると、かなりの激務だ。
まずは、部長の澤田に相談すべきかもしれない。
と思った、その時。
中庭の木陰に見覚えのある二人の姿を見つけ、雅人は息を飲んだ。
卓海と、絢乃だ。
二人は楽しげに談笑しながら、弁当を食べている。
雅人が知っている限り、卓海は中庭で昼食をとることはない。
ましてや、その相手が絢乃だとは思いもしなかった。