蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
卓海の胸に、黒いものが一気に広がっていく。
なぜ、絢乃は何も言わなかったのか。
なぜ、雅人がそれを知っていて・・・自分は、知らなかったのか。
そして、慧は・・・。
「・・・」
昏い怒りが、ふつふつと胸の底から湧き上がってくる。
卓海は自嘲するように少し笑い、立ち上がった。
怪訝そうな顔をする雅人に軽く頭を下げ、休憩スペースを出る。
卓海は第二開発課に続く廊下を歩きながら、掠れた声で呟いた。
「知らなかったのはオレだけってことか? ・・・ふざけんなよ・・・」
押さえられない怒りが卓海の胸を焼いていく。
それに追い立てるように、卓海は速足で居室へと向かった。