蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



休憩スペースの前まで来た絢乃は、足を止め、はぁはぁと肩を上下させた。

・・・もう、何が何だかわからない。

いつのまにか、頬は涙で濡れている。

そしてバレッタを落としてしまったため、髪は乱れ放題だ。

しかし今、給湯室に戻る気にはなれない。

卓海に会っても、どうすればいいのかわからない。


こんな顔では、運用課の部屋に戻るのも憚られる。

ちょっと休憩スペースで心を落ち着かせてから戻ろうか・・・。

絢乃はしゃくりあげながら、休憩スペースのドアを開けた。

と、その時。


「・・・秋月?」


休憩スペースの中から、聞き覚えのある声がした。

・・・響きのよい、バリトンの声。

はっと息を飲んだ絢乃に、入口近くの壁に寄りかかっていた雅人が顔を向けた。

眼鏡の奥の涼やかな二重の瞳が、驚いたように見開かれる。


「・・・どうした、秋月?」

「・・・」


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