蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃はぐっと唇を噛み、手を拳に握りしめた。
・・・よりによって、雅人にこんな姿を見られてしまうなんて・・・。
きっとまた、呆れられてしまう。
絢乃は慌ててぐいと目元をぬぐい、視線を逸らした。
「・・・すみません、何でもないです」
絢乃は休憩スペースを出、廊下の方に行こうとした。
・・・しかし。
その手を、雅人がとっさに掴んだ。
驚き、ビクッと背筋を強張らせた絢乃を、雅人はぐいと引き寄せる。
「・・・何でもないって顔じゃないだろう」
「・・・っ」
「何があった、秋月?」
雅人は言い、じっと絢乃の顔を覗き込む。
・・・その、真剣で熱を帯びた瞳。
あの救護室で見たのと同じ、真摯な瞳だ。
絢乃はなぜか心が熱くなるのを感じた。
それと同時に、目尻に涙が溢れてくる。