蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



絢乃はぐっと唇を噛み、手を拳に握りしめた。

・・・よりによって、雅人にこんな姿を見られてしまうなんて・・・。

きっとまた、呆れられてしまう。

絢乃は慌ててぐいと目元をぬぐい、視線を逸らした。


「・・・すみません、何でもないです」


絢乃は休憩スペースを出、廊下の方に行こうとした。

・・・しかし。

その手を、雅人がとっさに掴んだ。

驚き、ビクッと背筋を強張らせた絢乃を、雅人はぐいと引き寄せる。


「・・・何でもないって顔じゃないだろう」

「・・・っ」

「何があった、秋月?」


雅人は言い、じっと絢乃の顔を覗き込む。

・・・その、真剣で熱を帯びた瞳。

あの救護室で見たのと同じ、真摯な瞳だ。

絢乃はなぜか心が熱くなるのを感じた。

それと同時に、目尻に涙が溢れてくる。


< 419 / 438 >

この作品をシェア

pagetop