蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】



雅人は携帯を胸ポケットにしまった。

・・・いつもと同じ、冷静な表情。

きっと雅人はこの表情で、いつもと同じ冷静な態度で縁談相手に会うのだろう。

自らのやるべきことを、着実に淡々とこなしていくのは仕事の時と同じだ。

そして周りの者はその冷静さと堅実さに惹かれ、雅人についていくのだろう。

しかし・・・。

春美ははぁと息をつき、言った。


「・・・北條さん。北條さんがこれからどういう世界で生きていくのか、私にはよくわかりません。けれど・・・その・・・」

「・・・杉沢?」

「北條さんは相手の女性を幸せにできる人だと思います。これまでずっと一緒に仕事をしてきて、なんとなくそれはわかります」

「・・・」

「でも、北條さんを幸せにできる女性って、そう多くないような気がするんです。・・・なんとなく、ですけど・・・」


春美の言葉に、雅人は驚いたように眉を上げた。

・・・その、眼鏡の奥の涼やかな瞳。

春美から見て、雅人は鬼軍曹ではあるが、とても誠実で真面目な人間だ。

恐らく相手の女性にも、真摯な態度で接するだろう。


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