蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───二時間後。
説明会が終わった後、席を立とうとした絢乃の前に、卓海が歩み寄ってきた。
今の仕様変更の話だろうか?
と思った絢乃だったが、その予想は外れた。
「そういえば、絢乃ちゃん。あの件、アイツに聞いてみてくれた?」
・・・どうやら飲み会の件らしい。
絢乃はふるふると軽く首を振った。
「ダメでした。すみません・・・」
「またか。・・・全く、何でだろうね? オレ、何かしたかなぁ・・・」
卓海は首を傾げながら言う。
絢乃はなんだか申し訳なくなり、俯いた。
「すみません、加納さん・・・」
「あぁ、絢乃ちゃんが悪いわけじゃないから。気にしないで。ね?」
卓海は少し背を屈め、絢乃の顔を覗き込んだ。
ふわりと漂う、透明感のある甘いフゼアの香り。
・・・突然の接近に、思わず顔が赤くなる。
大人の色気を漂わせた茶色みを帯びた瞳に、完璧な形の薄紅色の唇。
卓海の顔は一見、爽やかで華やかな印象だが、こうして近くで見ると繊細さが際立つ。