蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は運用課の方へと歩いていく純也の後姿をしばし眺めた後、フロアの角にある休憩スペースへと向かった。
───昼にご飯をほとんど食べられなかったせいか、お腹がすいてきた。
休憩スペースには缶コーヒーやジュースの自販機がある。
液体でも多少は腹の足しになるだろう。
・・・と休憩スペースに入った絢乃だったが、先客がいることに気付き、眉を上げた。
さっきの会議で一緒だった香織だ。
「・・・」
香織は煙草を片手にちらりと絢乃を見たが、すぐに視線をそらして窓の外を見た。
香織は煙草を嗜むらしく、絢乃ももう何度か、香織がここで煙草を吸っている姿を見かけている。
ちなみに、喫煙が可能な休憩スペースはフロアの中ではここだけだ。
───なんだか、気まずい。
絢乃は缶コーヒーを買い、休憩スペースを出ようとした。
が、そのとき。
「・・・ねぇ、秋月さん」
後ろから声を掛けられ、絢乃は足を止めた。
見ると、香織が煙草の煙を燻らせながら、じっと絢乃を見つめている。