蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「───貴様、何を考えてる? 実在庫と有効在庫は違うと言っただろう!?」
「すっ、すみません、課長っっ」
「あまり物覚えが悪いようなら、貴様の頭にUSBを差してやろうか? 少しはマシになるかもしれん」
部屋の奥の方から、鋭い怒号が聞こえてくる。
絢乃はヒィィと思いながら、一歩、また一歩と辺りを見回しながら部屋の中へと入った。
部屋の中には15人ほどの社員がおり、皆、忙しそうにパソコンに向かっている。
・・・そして。
その一番奥の机に、目当ての人物は座っていた。
「・・・データの提出期限は今日中だ。貴様、できるか?」
と低い声で言い、机の上で指を組んでいるのは・・・
北條雅人。30歳。
第一開発課の課長にして、今は運用課の課長も兼任している。
きっちりと纏めたスタイリッシュなビジネスショートの黒髪に、涼しげな切れ長の二重の瞳。
銀縁の眼鏡が、その端整な顔立ちとクールな雰囲気によく似合っている。
背も高く、引き締まった長身を上品な濃紺のスーツに包んでいる。
その雰囲気も見た目も、まさに『デキる男』という感じだ。