蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「ほら。これでも飲んで? ・・・会社で何かあったの?」
「実は北條さんにロジで・・・」
と言いかけた絢乃だったが、慧は雅人のことはもちろん知らない。
絢乃は慌てて言い直そうとしたが、慧は軽く手を挙げてそれを制した。
「北條さん? ・・・ってお前のOJTをやってくれた先輩だっけ?」
「そ。今は第一開発課の課長をやってて、うちの課の課長も兼任してる。だから私の直属の上司ってことになるかな」
「へぇ。・・・ちなみにフルネームは何て言うの?」
兄の言葉に、絢乃は首を傾げた。
───なぜ兄が雅人のフルネームを聞きたがるのかわからない。
けれど別に隠すようなことでもないので、絢乃は言った。
「『北條雅人』だけど?」
「・・・」
絢乃が言うと、慧は腕を組んでうーんと考え込んだ。
・・・何かを思い出そうとするような、その表情。