蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「ちなみにこの作品の次作は『リターン・オブ・ザ・キラートマト』。あのジョージ・クルーニーが出てるらしいよ?」
「・・・」
───仕事選べよ。
と内心で呟いた絢乃に、慧はくすりと笑って言う。
「この映画、『何か別のことをしながら見るぐらいで丁度良い』って知り合いが言ってたから、お前、先に風呂に入ったら?」
「・・・わかった、そうする・・・」
慧の言葉に、絢乃は頷き立ち上がった。
・・・何かしながら見るくらいで丁度良い映画って・・・。
慧はたまにこういったマイナー映画の批評を行うこともあるが、今回の映画はかつてないダメっぷりだ。
というか明らかにそれを見越して作られている気がする。
・・・それにしても・・・。
慧は個人事業主のため、毎年、自分で確定申告を行っている。
去年は確か売上が2千万ほどで、経費は300万ほど。
───つまり。
慧はこの年齢で、サラリーマンの平均年収の4倍程の金額を稼いでいるのだ。
なのになぜ、こんな仕事を受けるのか。
恐らく本人の趣味なのだろうが、なんというか・・・。
やはり頭がいい人間の考えることはわからない。
絢乃は頭を捻りながら、洗面所の方へと向かった。