蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は足を止め、少し離れたところから雅人の様子を伺った。
雅人の机を挟んだ向かいには、入社二年目の男性社員が項垂れた様子で立ち尽くしている。
「で、できると・・・思います、多分」
「多分とは何だ。自信がないのか、貴様?」
「い、いえ・・・っ」
男性社員──名取はぐっと拳を握りしめ、雅人を見る。
叱られているというのに、どこか嬉しげなその眼差し。
そしてそんな彼を、同志を見るような温かい目で見ている周りの課員。
絢乃は何とも言えない思いでその光景を眺めていた。
「死んでも今日中に終わらせます! もう一度、チャンスをください!!」
名取は熱のこもった声で雅人に言い募る。
雅人は銀縁眼鏡を指先でくいと上げ、名取を見上げた。
「・・・本当に今日中にできるのか?」
「はい! オレ、体力には自信ありますから!! ゴキブリ並みの生命力ってよく言われます!」
「ゴキブリ並みの生命力?・・・スリッパで叩いたら死ぬのか、貴様は?」
「・・・・」