蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「・・・」
絢乃も後ろの方から、雅人が見ている画面をちらりと見た。
雅人は今は課長職に就いているが、入社当初、神懸り的なプログラミング能力を発揮し、それに心酔した人が取り巻きのように集まるようになった。
今の軍隊チックな雰囲気はそれが原因のようだが、今も課員の中には雅人の書いたプログラムコードを神の言葉のごとく、こっそりと机の引出しに貼っている人もいるらしい。
───あくまで噂だが。
そんな課員達にとっては、雅人がプログラムを修正する姿は、まるで神がその力を揮っている姿のように見えるのだろう。
・・・邪魔するのも何だし、資料だけ置いて帰ろう。
と絢乃が雅人の机にばさっと資料を置いた、その時。
「・・・遅い」
雅人の声とともに、キーボードを打つ音が止まった。
ヒッと思わず息を飲んだ絢乃を、雅人がくるりと振り返る。
・・・その、眼鏡の奥の鋭い瞳。
なまじ端整な顔立ちの分、迫力が増す。
「午前中までと言ったはずだが?」
「・・・す、すみませんっ」