蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
5.技術者として
─── 一時間後。
絢乃はようやく解放され、赤ペンの入った資料を片手にふらふらした足取りで運用課へと戻った。
なんだか一日分の生気を吸い取られた感じだ。
『・・・前から何度も言っているはずだ。作った資料は必ず見直せ。お前の場合、誤字脱字がゼロということは絶対にない』
『・・・ハイ、すみません・・・』
『データベースの容量が一桁間違っている。これだと予算が3倍に跳ね上がるが、そういう試算か?』
『・・・イエ、違います、すみません・・・』
『図のカラーリングがひどすぎる。赤のバックに緑の字はやめろ。色盲検査をやってる気分になる』
『・・・ハイ、全くもってすみません・・・』
雅人の指摘はどれも鋭く、どれも的確だ。
・・・というか、自分のドキュメントセンスのなさが嫌になってくる。
絢乃ははぁぁとため息をつき、雅人の赤ペンチェックが入った資料を自席に置いた後、廊下に出て休憩スペースへと向かった。
今度、慧にドキュメントの作り方を教えてもらおうか・・・。
などと思いながら歩いていた、そのとき。