蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
会場に入った絢乃は、必死に笑みを浮かべつつ、来場した会社員たちをブースへと案内した。
会場はセミナーブースと展示ブースの二つに分かれており、絢乃と香織は展示ブースが担当となった。
いらっしゃいませ~、とにこやかに笑みを振りまく香織に比べ、自分は明らかにぎこちない。
来場した会社員達も皆、香織の方に視線を向けている。
・・・別にこんな所で張り合う気はないが、少しヘコむ。
「あ、ちょっとそこのお姉さん」
横から声を掛けられ、絢乃は顔を上げた。
見ると、40歳くらいの眼鏡をかけたサラリーマンがパンフを片手にこちらを見ている。
「このパンフなんだけど、もう少し詳しい資料はあるかな? ちょっと興味があってね」
「・・・はい、畏まりました。少々お待ちくださいませ」
絢乃は言い、展示の棚の下から配布用の資料をいくつか見繕って取り出した。
それらを一つずつ渡しながら、簡単に説明する。
「・・・こちらのシステムは、輸出・輸入の機能を組み合わせた統合貿易システムとなっております。どちらも、多通貨の処理が可能となっております」
「ほぅ。外貨支払機能もついているのかね?」
「はい。外貨支払機能だけではなく、外貨での売掛・買掛の管理も可能となっております」