蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】




さくっと切り返した雅人に、名取は言葉を飲み込んだ。

一瞬頭が真っ白になったらしい。

しかしすぐに気を取り直し、もう一度口を開いた。


「本当に、大丈夫です!! オレはやります、課長!!」

「・・・わかった。そこまで言うなら、やってみろ」

「ハイ、ありがとうございます、課長!!」


名取はビシッと背筋を伸ばし、雅人に向けて一礼した。

・・・まるで軍人のようなその礼。

絢乃は唖然としながら、その光景を見つめていた。

その光景はまさに、『鬼軍曹と一兵卒』という感じだ。


───そう。


雅人が課長を務める第一開発課は、他の課から陰で『軍隊』と言われている。

理由は簡単だ。

冷徹かつ厳格に仕事をこなす雅人と、雅人の元で働きたいと願い、自ら異動を志願してこの課に入った男性課員達で構成された第一開発課。

雅人の指示のもと、統率のとれたチームワークで、計画的かつ緻密にきびきびと仕事をこなしていく課員たち。

それはまさに軍隊だ。

今時珍しい雰囲気の部署ではあるが、絢乃個人としては、雅人自体はさほど変な人ではないと思っている。

むしろ課長としてもSEとしても、とても有能だと思っているのだが・・・。



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