蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「ただいま~」
ガチャ、とドアが開き、慧が姿を現した。
絢乃は思わずまじまじと慧を見てしまった。
慧はダークグレーのストライプのスーツを身に着け、白いワイシャツにシックな赤茶のネクタイを締めている。
上品な革のビジネスバッグも、同色で揃えた革靴も、きっちりと整えた髪も・・・
その端正な美貌に相まり、はっきり言って物凄く格好いい。
いつもダレた格好をしているので、たまにこういう格好を見ると思わずドキッとしてしまう。
「あれ? アヤもちょうど帰ってきたとこ?」
「・・・う、うん」
絢乃はドキマギしながら、リビングの方へと視線を逸らした。
そんな絢乃の脇で、慧は前髪を無造作にかき上げ、ネクタイを緩める。
・・・大人の男の色気を感じる、その仕草。
いつもは少年ぽい印象の兄なのだが、たまにこういう格好をすると、大人の男に見えるから不思議だ。
きっと一般企業に勤めていたら、今頃女に取り囲まれて、とっくに結婚してるだろうなー・・・
などと考えていた絢乃に、慧はにこりと笑って言う。