蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───絢乃が入社した時。
絢乃のOJT、つまり教育担当は雅人が務めた。
もちろん鬼軍曹と言われるだけあってそれはそれは厳しいものだったが、指導内容は的確だし、教えてくれた内容もとてもわかりやすかった。
なので絢乃も、新入社員の時から雅人に対して尊敬の念を抱いている。
もちろん、ここの課員のように熱狂的ではないが。
名取が雅人の前を辞した後、絢乃は恐る恐る雅人の机の前に寄った。
雅人は絢乃を見、ああ、と声を上げる。
「秋月か。早いな、お前にしては」
「・・・」
「お前に頼みたいことがある。受注データのチューニングだ」
言い、雅人は机の上に置いてあった書類を机越しにばさっと絢乃に渡した。
雅人が課長を務める第一開発課は、グランツ・ジャパンの物流システムの設計・開発を行っている。
そして物流システムのデータベースの運用は、絢乃が所属する運用課が行っている。
つまり課は違えど、同じシステムを相手にしているので仕事は課をまたいでやってくるのだ。
「この頃、レスポンスが悪くてな。まずは調べてみてほしい」
「了解しました。期限はいつまででしょうか?」
「可能なら明日。無理なら明後日。それでも無理なら明々後日」
雅人は淡々と言う。