蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は思いを振り払うように首を振り、ナイフとフォークを手に取った。
・・・慧とは、何回かこの店に来たことがある。
それは誕生日だったり、何かの御祝い事だったりと、特別な日だったのだが・・・
今日のように、平日の夕飯で来るのは珍しい。
「ほら、アヤ、食べなよ」
言い、慧は手際よく料理を取り分けてくれる。
───店でも家でも変わらない、その優しい気遣い。
妹の自分にもこんなに優しく、いろいろと尽くしてくれるのだから・・・
きっと奥さんになる人には、真綿で包み込むように、もっと優しくするだろう。
慧は誰かを慈しみ、幸せにすることができる人だ。
妹の自分が、ずっとその恩恵を受け続けるわけにはいかない。
・・・やはり、まずは一人暮らしだろうか。
慧と離れるのは寂しいが、そろそろ次の一歩を踏み出す時かもしれない。
絢乃はそんなことを考えながら、慧が取り分けてくれた料理にフォークを伸ばした。