蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
第一開発課のドアをくぐった絢乃は、部屋の奥に目当ての人物を見つけ、足早に歩み寄った。
───きっちりと纏めたスタイリッシュなビジネスショートの黒髪に、涼しげな切れ長の二重の瞳。
雅人は自席で、手にした資料に目を走らせている。
眼鏡の奥の瞳は相変わらず鋭さを湛えているが、こうしてみるとやはり雅人も卓海と同じくらい整った顔をしている。
・・・性格は180度違うが。
絢乃が近づくと、雅人は顔を上げ、銀縁眼鏡を指先でくいと上げた。
「・・・なんだ? 秋月」
「北條さん、今よろしいでしょうか?」
絢乃は言い、持ってきたノートパソコンを雅人の机の上に置いた。
いつもは雅人に対してどこかビクビクしている絢乃だが、こと技術的なことになるとその怯えは全くなくなる。
雅人はしばし無言で絢乃を見つめた後、口を開いた。
「・・・長くなりそうだな。椅子を持って来い」