蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
───そして、三時間後。
絢乃は雅人の机越しに、身を乗り出していた。
とうに陽は落ち、時計の針は20時を指している。
二人の間には絢乃のノートパソコンが置かれ、その脇に書き殴られたメモやらペンやらが散乱している。
「・・・ですから、そこをそうしてしまうと動きが悪くなります!」
と、叫ぶように言った絢乃に。
雅人もイラついた様子で、怒鳴るように言う。
「しかしこの構成でいくと、夜間バッチが超過するぞ? 超過したらどうなる!?」
「でもこのままいくと、夜間バッチの前にシステムが落ちます!」
「・・・その確率は? 夜間バッチが超過したら、他システムにも影響が出る。そこはお前もわかっているだろう!?」
・・・凄まじい熱気が二人の間に渦巻いている。
第一開発課の他の課員も数人残っているが、全員目を丸くして、遠巻きに二人を見ている。
絢乃ははぁはぁと肩を上下させながら、雅人を見た。
雅人もいつもの冷静さが消えた、少し熱気を帯びた目で絢乃を見る。
───技術者としての、一歩も譲れない戦い。
まさにそんな感じだ。
絢乃もここまできたら、たとえ相手が雅人と言えど、納得するまでは引き下がれない。