蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
雅人も同じ技術者として、絢乃の心情はわかっているつもりだ。
けれどつい、カッとしてしまい・・・
あんな言葉を投げてしまった。
「・・・嫌われたか?」
雅人は無意識のうちにぽそりと呟いた。
───絢乃は入社時から、雅人が指導してきた後輩だ。
課は違ったが、これまで様々な仕事を一緒にこなしてきた。
絢乃の技術者としての能力は部内でもトップクラスで、雅人も絢乃の入社時から、この後輩を大切に育てていこうと思っていた。
口にこそ出さないが、最も目をかけていたと言ってもいい。
そして、雅人にここまで自分の意見をぶつけてくるのも、絢乃だけだ。
・・・3年前のOJTの後。
新入社員の配属を決めるとき、雅人は絢乃を第一開発課に配属するよう、人事課に希望を出した。
5人いた情報系の新入社員のうち、雅人が希望を出したのは絢乃だけだ。
というより、希望を出したこと自体が初めてだった。
しかし絢乃には、第二開発課と運用課からも配属希望が出ていた。
卓海も絢乃の能力に目を付け、希望を出したらしい。
けれど運用課が一番人材が手薄だったため、絢乃は運用課の配属となった。