蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は眉を上げた。
・・・それは、つまり。
「・・・つまりできるだけ早くということですね?」
「そういうことだ。最終期限は来週の月曜。間に合いそうになければ月曜の朝にメールを入れてくれ」
「はい、畏まりました」
ぺこり、と絢乃は一礼した。
そのまま踵を返し、部屋を出る。
廊下を歩きながら、絢乃はほっと胸を撫で下ろした。
お叱りではなくてよかった・・・。
先ほどの名取の姿を思い出すと、自分も新入社員の頃はああだったな、と思う。
思い出すだけで心が凍りつく、あの恐怖のOJTの日々。
『──おい、貴様はデータベースを作っているのか、それとも破壊しているのか?』
『・・・あぅ・・・っ』
『なんだそのプログラムコードは。貴様、独自言語でも作るつもりか?』
『・・・う、うう・・・っ』
『笑えるほど貧弱なシステムだな。Enterを押したら強制終了って、嫌がらせか?』
『・・・ひぃ・・・っ』
───あれはまさに、鬼軍曹の名に恥じないOJTだった。
あの破壊光線のような鋭い視線と、絶対零度の氷の言葉に追い立てられるように、絢乃はひたすら課題をこなした。
けれどOJTが終わる頃には、SEとして必要な基礎知識は一通り身についていた。
それはひとえに、雅人の指導の賜物と言える。
ありがたいといえば、ありがたい・・・のだが・・・・。