蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
ふわり、とクールなグリーンノートの香りが背後から漂ってきた。
ん? と思った絢乃の目の前に、缶コーヒーが突きつけられる。
驚き、振り返った絢乃の目に映ったのは・・・。
「・・・北條さん?」
雅人は絢乃の手に缶コーヒーを押し付けると、絢乃の隣の長椅子に座った。
雅人の手にも、缶コーヒーがある。
驚く絢乃の隣で、雅人は缶コーヒーを傾け、一口飲んだ。
・・・少し疲れたような、その表情。
けれどその口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。
「・・・お前は変わらないな、昔から」
雅人は窓の外を見つめたまま、呟くように言った。
いつもクールで冴え冴えとした瞳が、少し柔らかな影を帯びている。
・・・先ほどの厳しい表情とは違う、その表情。
絢乃はなぜか胸がドキッとするのを感じた。
新入社員の時から、雅人は絢乃に、技術者としての基礎的な考え方や様々なシステムの知識を教えてくれた。
今回の件については、まだ納得していない部分はあるが・・・
雅人は昔も今も、絢乃にとっては尊敬する先輩だ。
どんな時でも、雅人は絢乃に正面から向き合ってくれる。