蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
絢乃は目を輝かせ、窓の前へと寄った。
絢乃の大きな黒い瞳に、色とりどりの花火が映る。
その楽しげな表情に、雅人の眼鏡の奥の瞳がかすかに和む。
「・・・久しぶりだな、花火を見るのは」
「そうなんですか?」
「お前、確か川崎だったな? ・・・湾岸線で帰れば、もっと近くで見えるかもしれん」
雅人の言葉に、絢乃は眉を上げた。
・・・湾岸線?
と首を傾げた絢乃の前で、雅人は胸ポケットから車のキーを取り出した。
タグが付いていないので、社用車のキーではない。
この会社では基本的に車通勤はNGだが、課長以上に限り、客先に直行する場合などはマイカーの使用が認められている。
「・・・え、北條さん、車で来たんですか?」
「午前に幕張でセミナーがあったからな。・・・どうせ同じ方面だ、送ってやる」