蜜愛シンドローム ~ 陥溺の罠 ~【完】
「おかえり、アヤ。・・・すみません、わざわざ送って頂いて」
慧は社交辞令用の完璧な笑みを浮かべ、雅人を見る。
雅人は慧の容貌に一瞬驚いた様子だったが、すぐに同じく社交辞令用の笑みを口元に浮かべた。
「いえ。こちらこそ、遅くまで仕事をさせてしまって申し訳ない」
遅くなった原因はむしろ絢乃にあるのだが、雅人の立場としてはそう言うしかない。
すみません、と心の中で呟きながら、絢乃は雅人に慧を紹介した。
「・・・あの、こちらが兄の慧です」
「はじめまして。いつも妹がお世話になっております」
慧はにこりと笑い、軽く頭を下げた。
慧は普段はマイペースだが、こういう時には社会人として完璧に振舞うことができる。
雅人も軽く頷き、眼鏡の奥の瞳を細めて言った。
「北條です。はじめまして」
「妹から、いろいろとお話は伺っております。入社時にOJTもして頂いたそうで、本当に感謝しております」