恋愛温度(番外編も完結しました)
§Ⅳ ひとりの時間

心の整理


1.心の整理


「どちらに、行かれるのですか?」

人の良さそうな年配の女性が、声をかけてきた。


「あ、はい。軽井沢の知り合いの所に。」


「まあ、同じだわ。私は別荘に行くところなの。

 途中までご一緒していただける?」


「あ、はい。」

彼女はニコニコしながら隣に座り、

カバンの中からキャンディを取り出した。

昔からある、元祖ゆるキャラの棒付きキャンディだ。

「よかったらどうぞ?」

赤い着色された、キャンディを差し出して、

「なんか懐かしいでしょ?」

「はい。」

「私が病気になると、よく母が近くの駄菓子屋で買ってきてくれてね。

 知ってる?昔は1本10円とかでバラ売りしてたのよ?」


「へえ。そうなんですか。」

「今はこんなに詰まってて150円だったわ。

 今の方が安いとかって笑っちゃうわね?有り難さも半減しちゃう。

 でも、味は昔のまんまで、

 口いっぱいに広がる甘さが、昔を思い出させてくれるの。」


彼女はにっこり笑い薄いセロハンをはがして口に運ぶ。




< 134 / 311 >

この作品をシェア

pagetop