夏の日差しと狼のいろ。


「リルちゃん久しぶり」


ツキは短く挨拶を返し、
向こうに行っているように言った。



何よりツキは気が立っていた。


町の入り口に放ってきた、
アルのことは忘れていた。




リルは何やら目を輝かせ
長い髪をゆらしながら

向こうへ走ってゆく。






「許さない!」



ツキは氷づけにしたサンドルを
睨みつけ、

手をすっと出した。



ぴたりと氷に触れる。



氷がじんわり溶けて
サンドルがどしゃりと倒れた。



途端に肩の傷から血が吹き出す。


『…っ、この…小娘…が…』



サンドルは喘ぎながら
人間の姿に戻った。



ツキは怒りまかせに
サンドルの胸倉を掴む。



「ここは私の町だよ?
ここで何してるのよ!!!」



自分が生まれた場所。

自分を待っていてくれる場所。




コイツはそれを
壊そうとしてるんだ…!



ツキは青い目をきらりと輝かせ
サンドルを威嚇した。




「…ふん…この町は、もう…
終…わりだ……」



すでに血の気がなくなっていた
サンドルはやり遂げたかのように

カクリと首を後ろに倒し、
静かになった。




ツキの体を寒気が駆け抜ける。



サンドルが死んだ。



ツキは恐怖で怒りを忘れた。




…人を、殺し…た…?




ツキは思った。


勝手に弱って死んだんじゃない。


"自分がつけた傷"が原因で
サンドルは死んだんだ…





ツキは途端に怒りを忘れ
自分がやってしまったことに
混乱し、頭を抱えた。





(人を殺すために力を
取り戻したんじゃないのに…!)
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