夏の日差しと狼のいろ。
呆然と涙を流しているツキの耳にカツン、と足音が届いた。
そこでツキははっとした。怯えている場合ではない。
隠れられるわけもないが近づく足音にツキはかまえた。
しばらくすると誰かが牢屋の前に立った。
見覚えのある奴だった。
昔ツキを乱暴に働かせていた奴の一人だ。
ツキは体が震えるのをこらえ、男を睨みつけた。
男は不服そうに鼻をならすと静かに口を開いた。
「久しぶりだなァ?クソ犬」
ツキは睨み続けた。
男は大きな身長に、引き締まったガッシリした体つきだ。
昔いた奴の中では一番若かった男だろう。
顔やうでには何かの傷あとがある。
目にかかる大きな傷で片目は見えないことがわかる。
その傷を指して男は言った。
「あの時の傷だ…
俺だけが生き残ったんだ」
ツキははっとした。
きっと狼のウルーにやられたものだと。
ツキはぐっと体に力をこめて叫んだ。
「っ……ここから出せっ!!」
一瞬、しん…としたが
次の瞬間男が怒鳴った。
「何だと!?このクソ犬が!!!」
そういうとおもむろに牢屋をあけて、ツキの首輪の鎖をひっぱりツキを牢屋から引きずり出した。
「…っ!」
首が絞まったのと、思い切り転げ落ちた痛みとで ツキは呻いた。