夏の日差しと狼のいろ。
そのナイフはそっと、ツキの頬にあてられた。
ナイフが鈍く光る。
ツキはさっきまで体のあちこちが痛かったが
今は頬にあたる、冷たいナイフにすべての神経があつまったように痛みを忘れていた。
「このナイフで…お前におしおきだ」
男がにやりと笑ってツキがはっとなったのと同時に頬に焼けるような痛みがはしった。
「…っ」
それは男が頬にあてたナイフに力をいれたから。
傷からはじわりと血が流れて頬をつたった。
そして、ぽたりと地面におちた。
ツキは本当に、殺されるー…
そう思いながら流れる血をみつめた。
鈍く光るナイフが再び視界にうつり、はっとツキが顔をあげると、
今度はもっと大きく、スパリ、とツキの目付近から顎にかけて切られた。
「…っ!…」
激しい痛みに、ツキはきゅっと唇を噛んだ。
(悲鳴をあげたら…コイツの思うつぼだよね…っ)
そう思い、俯き、じっと耐えた。
すると、男がツキの顎をくいっと持ち上げた。
「痛いんだろう?それとも痛くないか?」
再び男は怪しく笑う。
そのセリフはツキの顔を見て のことだろう。
ツキの顔半分の痛々しい傷。
血が流れこんで閉じられた目。
うっすらとうかぶ涙。
そして恐怖の色。
ツキにはもう、どうしようもなかった。
逃げたい…生きたい…
でもこの男は復習と恨みをこめた瞳でこちらを見ている。
鉛色に光る、血のついたナイフをもって。