璃子
今度はナツキが目を丸くする番だった。
「だって、独りでは生きてはいけないもの」
璃子の顔に慈愛に満ちた微笑みが浮かぶ。
「“誰か”がいて、私がいる」
「支倉くんだって、ほんとは分かってるはずよ」
暖かい風がナツキの頬を撫でる。
「人は真っ黒なんかじゃない。…人間は弱いから、傷付け合うこともあるわ。でもね、どんな人にだって」
「何を言いたいんだい?」
ナツキが声を上げる。
君に何がわかるんだ。くそ、偽善者め。
普段、人前では穏和な笑みを絶やさない、ナツキらしからぬ表情を浮かべる。
そして、瑠璃は気まずそうに視線を反らした後、照れ臭そうに笑った。
「ごめんなさい、今のは忘れてね。あなたが私の知ってる人に似ているものだから」