神様修行はじめます! 其の二
でも、それをためらわせるものがある。

人との絆が・・・

ううん、それだけでは説明できない何かが。


言葉では説明できない何かが、確かに存在していて。

それが、絹糸を人の世から離さない。


この、心優しい生き物を。


「みんなが逝ってしまっても、思い出は残るでしょう?」

「小娘よ、思い出というものはのぉ・・・」


絹糸は夜空を見上げた。


「時に、ひどく残酷に心を苦しめるものなのじゃよ」


残酷に苦しめる?

思い出が人を苦しめるの?


「思い出は、綺麗で優しいものじゃないの?」

「そう信じるには、我は歳を取ってしまった」


長い時を過ごしてしまったのでのぉ。


夜空を見上げたまま、絹糸がつぶやいた。

遠い遠い目だった。

あたしには想像もできないほど、遠い記憶の糸を手繰り寄せていた。


その膨大な記憶が、思い出が、全て苦しいものでは無いのだろうけれど。


綺麗であればあるほど。

優しければ優しいほど。

切なく、胸を締め付けるんだろうか。

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