神様修行はじめます! 其の二
権田原の屋敷の庭に立ち、感慨深く周囲を見渡す。

秋深い色に彩られた景色を。


遠くの峰も近くの木々も、全てが錦に染められて。

色の霞む木の幹が、肌寒い風を感じさせる。


どこまでも続く金色の稲穂の海。

高い高い、薄青の澄んだ空の色。

あぜ道に揺れる背の高い可憐な花。


今日でお別れだ。

しま子が、仲良くなった牛達やニワトリ達と別れを惜しんでいる。


うん、寂しいね。

この懐かしくて温かく、どこか切ない場所ともお別れなんだ。

お別れ、なんだ・・・。


「天内のお嬢様」


セバスチャンさんが、にこやかに近づいてきた。

いつもと変わらない黒い燕尾服、黒いアスコットタイ、白い手袋。


「セバスチャンさん、体の方は大丈夫ですか?」

「はい。ご心配には及びません」


一度は完全に死んだ身。

禁呪を受けて、何か体に副作用でも出ないかと皆が心配した。

それに・・・

当主さんの命を犠牲にして、自分が生き延びた事に罪悪感を感じないかと・・・。


でも、これまた彼もすぐに立ち直った。

実際、セバスチャンさんも落ち込んでなんていられない状況だったから。


当主の葬儀のための一連の儀式。

お岩さんの就任式。

今回の件で被害を受けた民の補償と救済。


それらの全てをセバスチャンさんが取り仕切って手配した。

ろくに寝てる暇も無かったと思う。
< 630 / 654 >

この作品をシェア

pagetop