幸せになろう
「慎一、昨日お母さんがね、こんな事を言っていたの。
ほらあの時、慎一は怒って席を離れたでしょ。あれから貴方にこんな事を言っていたわ」
さやかがさりげなく、そう切り出した。
さやかの回想、和江の言葉
「私、このまま総一郎さんについて行けるか自信がなかった。
だから、何かあった時は総一郎さんから自立する事も考えたの。
私は、総一郎さんからもらったお金で勉強して、会計士の資格を取ったの。
そして今は、ある会社で働いているわ。あのお金、私が少し稼いだ分もあるの。
今更こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、少しでも、慎一に母親らしい事を
しようと思って。お父さんの分もね。
今回も少し持ってきたの。これ、慎一の生活費のたしにしてね」
「これ、お母さんから預かってきたの。慎一に渡してって」
そう言うと、さやかは慎一に茶封筒を渡した。
「お母さん、慎一の事をすごく心配していたよ」
「自分から家族関係を壊しておいて、自業自得だろう」
慎一は突き放した。
「お母さん、お父さんばかり心配していたから、多分、私達に対する接し方を間違えた。
お母さんだってすごく辛かったんじゃないかな。それに、今はきっと反省していると思う」
さやかは、和江の気持ちを想像した。
慎一は考え込んだ。
俺は母さんの事を何も知らなかった。いや、知ろうともしなかった。
母さんは好き勝手に生きているだけと決め付けていた。
俺の事なんか考えていないとずっと思い込んできた。だけど違った。
お母さんは、やり方を間違えたかも知れない。でも、離れてても俺の事を考えていてくれた。
慎一は頭では理解していたものの、まだ母を許す気にはなれなかった。
和江の手術は無事終わった。
数日後、総一郎が再び見舞いに来た。
総一郎と和江が、病室で会話をしている間、慎一達は廊下で待たされた。
やがて総一郎が部屋から出て来た。
「お前は学生の頃、相当経済的に苦労したようだな。
学費が必要なら俺に言えばいいのに」
今更、必要なら出してやったと言われても……
慎一は困惑するばかりだ。
「連絡先も告げずに出て行った父さんに、どうやって頼めばよかったんだよ」
「そうだったな」
「姉さんの葬式以来、父さん達は家に帰って来なかった。俺は親に見捨てられたと思った。
だから自分で頑張るしかなかったんだ」
しばらく、ふたりは黙り込んだ。互いに、物を言いづらい雰囲気が漂った。
ほらあの時、慎一は怒って席を離れたでしょ。あれから貴方にこんな事を言っていたわ」
さやかがさりげなく、そう切り出した。
さやかの回想、和江の言葉
「私、このまま総一郎さんについて行けるか自信がなかった。
だから、何かあった時は総一郎さんから自立する事も考えたの。
私は、総一郎さんからもらったお金で勉強して、会計士の資格を取ったの。
そして今は、ある会社で働いているわ。あのお金、私が少し稼いだ分もあるの。
今更こんな事言ったら怒られるかもしれないけど、少しでも、慎一に母親らしい事を
しようと思って。お父さんの分もね。
今回も少し持ってきたの。これ、慎一の生活費のたしにしてね」
「これ、お母さんから預かってきたの。慎一に渡してって」
そう言うと、さやかは慎一に茶封筒を渡した。
「お母さん、慎一の事をすごく心配していたよ」
「自分から家族関係を壊しておいて、自業自得だろう」
慎一は突き放した。
「お母さん、お父さんばかり心配していたから、多分、私達に対する接し方を間違えた。
お母さんだってすごく辛かったんじゃないかな。それに、今はきっと反省していると思う」
さやかは、和江の気持ちを想像した。
慎一は考え込んだ。
俺は母さんの事を何も知らなかった。いや、知ろうともしなかった。
母さんは好き勝手に生きているだけと決め付けていた。
俺の事なんか考えていないとずっと思い込んできた。だけど違った。
お母さんは、やり方を間違えたかも知れない。でも、離れてても俺の事を考えていてくれた。
慎一は頭では理解していたものの、まだ母を許す気にはなれなかった。
和江の手術は無事終わった。
数日後、総一郎が再び見舞いに来た。
総一郎と和江が、病室で会話をしている間、慎一達は廊下で待たされた。
やがて総一郎が部屋から出て来た。
「お前は学生の頃、相当経済的に苦労したようだな。
学費が必要なら俺に言えばいいのに」
今更、必要なら出してやったと言われても……
慎一は困惑するばかりだ。
「連絡先も告げずに出て行った父さんに、どうやって頼めばよかったんだよ」
「そうだったな」
「姉さんの葬式以来、父さん達は家に帰って来なかった。俺は親に見捨てられたと思った。
だから自分で頑張るしかなかったんだ」
しばらく、ふたりは黙り込んだ。互いに、物を言いづらい雰囲気が漂った。