幸せになろう
やがてさやかが、
「慎一、母さんがどんな気持ちで過ごしてきたか、父さんに話さなくていいの?」
「そう言われても……」
慎一は言い出しにくかった。
「慎一が言わないんだったら、私が話すよ」
さやかが話そうとした。
「待って、やっぱり俺が話す」
母が今までどんな気持ちで過ごしてきたか、父の事をどう思っているのか。
会計士の仕事を始めた理由など、慎一は総一郎に全て話した。
「お母さんは、ずっと一人で辛かったんだと思う。だから胃潰瘍なんかに……
それに、今もお父さんのことをすごく愛しているのよ。
でも、お母さん疲れたって。もうお父さんについて行く自信がないって。
このままじゃ、お母さんの心はどんどんお父さんから離れていっちゃう。
私、お父さんとお母さんにはずっと仲良くしていてほしい。これ以上お母さんを悲しませないで」
さやかはこらえきれずに泣いた。
「どうするんだよ、父さん」
「どうするの? お父さん」
慎一とさやかは、総一郎に迫った。彼は黙って聞いていたが、
やがて和江の病室に再び入って行った。慎一達も続いて中に入った。
部屋の中では、エレーナが和江の体に触れていた。彼女の手からは小さな光が発している。
「何をしているんだ?」
総一郎が不審に思い、声を掛けた。
和江の体から、光の塊のような物が出てきて、それは、映像を映し始めた。
そこには、総一郎と和江が映っていた。
「これは!」
若かりし頃の両親が楽しそうに会話をしている。
熱く自分の夢を語る総一郎。それを楽しそうに聞く和江。
慎一とさやかは、こんな楽しそうな両親を初めて見た。
 次に写し出されたのは、さやかが産まれた時のものだ。
総一郎はさやかを抱き上げて喜んでいる。そのかたわらで、微笑む和江。
幸せそうなふたり……
今の総一郎と和江が、決して見せる事のない表情。
ふたりの映像を映しながら、エレーナはこう言った。
「これは、和江さんの中にある、総一郎さんとの思い出です。
和江さんの心に大切にしまわれていた物です。和江さんの心が私にそう話してくれました。
総一郎さん、受け止めてあげて下さい。和江さんの気持ちを……
そして慎一さんや、さやかさんの気持ちも……」
「君はいったい?」
「私は天使、人々に幸せを授けるのが私の役目です」
エレーナは、翼を広げた。彼女の服が白い天使服に変わった。
これが天使の本当の力なのか?
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