幸せになろう
「ところで、お兄ちゃんのところには、まだエレーナさんとさやか姉さんがいるんだね。
私は天使取上げられちゃったのに……」
夏穂は、エレーナとさやかが気になっていた。
「ねえ、お兄ちゃんて、そんなに不幸なの? 何かすごく辛い事とかがあるの?」
「俺達は新人天使のルーシーの人間界での研修を手伝わなければならないし、でもそれが済
んだら、天使を返さなければならないんだ」
「そうなの」
夏穂は、慎一にまだ天使が付いていることを羨ましがるどころか、むしろ彼を
そこまで心配してくれていたのだ。
こんな、素直で優しい娘から天使を取上げるなんてひどい。
 
 「俺は、夏穂ちゃんの友達が増えればいいと思った。ただそれだけだった。
天上界の状況も知らず、自分の判断だけで天使を紹介した。
まさかこんな事になるなんて思わなかった。俺は、何てひどい事をしたんだ。俺のせいだ。
俺がもっとしっかりしていれば、あの娘を悲しませることはなかったんだ。
なのに夏穂ちゃんは、羨ましがるどころか、俺がすごく
不幸なんじゃないかって心配してくれたんだ。
俺は、そんな夏穂ちゃんの気持ちを踏みにじるような事をしたんだ」
慎一は、とりみだした。
「慎一、落ち着いて」
「慎一さんは悪くありません。自分を責めないで下さい」
さやかとエレーナは、慎一を落ち着かせようとする。
「ちゃんと慎一に本当の事を話さなかった私達が悪いのよ」
「慎一さんは、何も知らなかっただけです。
それに、天上界の事情まで知っている人間は、ほとんどいませんよ」
だが、慎一は、
「悪い事をした時、知らなかったじゃ済まされない。
人間界の仕組みがどうとか散々偉そうな事を言っておいて、
天上界の事を一番分かっていないのは俺じゃないか」
「慎一さん……」
ひたすら自分を責め続ける慎一にエレーナもさやかも何も言えなかった。
あと半年、ルーシーの成長次第では、数ヶ月後にはエレーナもさやかもいない。
ルーシーの研修期間が終わる前に、エレーナもさやかもいるうちに、何とかしなければならない。 
慎一は、危機感を強めた。



< 115 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop