幸せになろう
あいつは天使。不幸な人間を幸せにするのが役目なんだ。
でも、俺が不幸じゃなくなってしまった以上、いつまでも一緒にはいられないんだ。
もっと不幸な人を助けに行かなければならないんだ」
「じゃあ、愛し合うふたりが引き裂かれるのは不幸じゃないの?
決まりなんか、変えればいいでしょ。
天上界の人達が考え方を変えれば、慎一さんは、エレーナさんとずっと一緒にいられるでしょ」
以前慎一も、エレガンス幹部に同じような事を言った。だが、変えられなかった。
「でも、俺の力ではどうすることも出来ない」
「人間と天使が恋人になっちゃいけないという決まりでもあるの?」
「恋人になるのは、自由なんだ」
「そんな決まり勝手よ。恋人になるのは許しておいて、あとでいろいろ理由をつけて
別れされるなんて。決まりなんて無くなれば、慎一さんもエレーナさんも
そんな悲しい思い、しなくて済むのに」
エレーナがいなくなれば、夕菜にとって、慎一を自分のモノにするチャンスだ。
でも、慎一の気持ちがエレーナにしか向いていないのを、夕菜は嫌と言うほど感じていた。
 
 ルーシーの研修はあと残りわずかとなった。
「慎一さんは私なんかより、人間の女性と付き合ったほうがいいと思います」
それは、エレーナからの思いがけない別れを告げる言葉だった。
「突然、何言い出すんだよ」
「慎一さんだって、将来結婚したり、子供が欲しくなったりするかもしれないでしょう?
天使の私にはそれが出来ないから……」
エレーナは笑っている。でもその眼はさびしく悲しそうだ。
彼女は窓の方を向いてこう言った。
「慎一さんには他にいるでしょう。夏穂さんや綾香さんや夕菜さんが。
みんな慎一さんの事が大好きなんですよ。
私がいなくなっても、あの人達がきっと慎一さんを幸せにしてくれます。
だから、あの人達を私の分まで大切にしてあげて下さい」
慎一は一瞬、エレーナの姿が消えていくのを見た気がした。
「そんな悲しい事言うなよ。俺はエレーナが好きだ。これからもずっと好きだ。
他の女性じゃ君の代わりにならない。エレーナじゃないと嫌だ!」
慎一は後ろからエレーナを抱きしめた。
「心にも無い事、言うなよ」
エレーナは泣いていた。今まで無理をして、自分にうそをついていたのだろう。
こらえきれなくなった涙が、後から々あふれてきた。
「私、慎一さんが好きです。離れたくないんです。他の人の所に行きたくないです。




< 118 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop