幸せになろう
そう言うとジェシーはどこかへ飛んで行った。
「おい、待ってくれ、ジェシー」
エレーナが何も覚えていないなんて嘘だ。
慎一は、まるで悪夢でも見ているような気がした。
「あれ? 慎一じゃない」
さやかが慎一に気づいて声を掛けてきた。
「姉さんは俺の事を覚えているのか? 記憶を消されたりしていないのか?」
「忘れる訳ないでしょ。何変な事を言っているの?」
「エレーナが俺の事、覚えていないんだ。記憶を消されたんだ」
「天使としての役目があるんだから、エレーナのことは仕方ないわよ」
「姉さんまで……」
さやかは、あっさりとそう言った。実の姉の口から出たとは思えないほど、余りにも淡泊な言葉だ。
「私、これから行く所があるから」
「行く所って?」
「今の契約者、体の不自由なお年寄りだから、私が病院に連れて行かなければならないの。
慎一と話している暇はないの。ごめんね」
「待って、姉さん。姉さんってば」
行ってしまった。
エレーナ、姉さんまで……
「嘘だ! こんなの嘘だ!」
慎一は大声を張り上げた。

 ガバッ!
慎一は飛び起きた。気づくと、ベットで寝かされていた。
「夢?」
「慎一さん、気がついたんですね」
エレーナとさやかが、慎一の顔をのぞきこんでいる。
「ここは、どこ?」
慎一は、辺りを振り返る。
「病院よ。あんた、風邪をこじらせて肺炎になっていたのよ」
「そうだったのか」
さやかに説明されて、慎一はようやく自分の置かれた状況が分かった。
「慎一さん、相当うなされていましたよ」
「大声で寝言を言っていたしね」
「よっぽど悪い夢を見ていらしたようですね」
それにしても何て夢だ。夢で本当によかった。だが、いずれ正夢になるかもしれない。
慎一はあまり安心していられない。
「ルーシーはどうなった?」
「まだ、天上界に行ったままよ。それよりも今は、ゆっくり休んで」
さやかは、慎一に毛布かけ直した。
「慎一さん、お母さんが入院して、毎日見舞いに通ったり、天上界の来客相手や、
ルーシーさんの研修、それに、夏穂さんや綾香さんの事も気にかかっていたようですし、
心労がたたったのでしょう」
エレーナは、慎一を気遣う。

 ルーシーが戻ってきた。
「慎一さんが肺炎で入院したって契約管理システムに表示されたので急いで帰って来ました」
契約管理システムは、契約者の健康状態まで分かる。
「悪い、君にまで心配をかけて」
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