幸せになろう
両親は、エレーナをひどく毛嫌いした。
また俺の大切な人を奪うつもりか。
慎一は、家を飛び出した。
ところが、いくら探してもエレーナは見つからない。
走り回っているうちに、川のそばまで来た。
姉さん、三浦、そしてエレーナまで。
どうして俺の大切な人は、みんないなくなっちゃうんだ。
ひどい喪失感が慎一を襲った。
彼は空を見上げながらつぶやいた。
「姉さん、俺はどうしたらいいんだ」
その時だった。
さやかの幽霊が現れた。
さやかは、ボォっと宙に浮いている。
「姉さん?」
だが、それは、幽霊なんかではなく一種の幻だった。
慎一には、それが幽霊に見えたのだ。さやかの幻はしだいに遠ざかっていく。
「待って! 姉さん。教えてくれ、何でみんな行っちゃうんだ。俺を一人にしないでくれ」
慎一は、さやかの幻を追いかけてふらふらと川のほうへ歩いて行った。
さやかの幻は、さらに遠ざかって行く。
気づくと慎一は、川岸の急斜面を転げ落ち、真っ逆さまに川の中へ。
川の流れは予想以上に速く、慎一は、どんどん流された。
そして、濁流に飲み込まれ、その姿は見えなくなった。

 慎一が川に流される少し前の事だ。
その頃、家を追い出されたエレーナは、少し遠くまで来ていた。
見知らぬ、ビルの屋上で一休みをしていた。
その時、エレーナは何かを感じ取った。
「これは!」
今までに感じたことのないような深い悲しみ……
「この悲しい思いは、慎一さんの……」
エレーナは、ひどい胸騒ぎがした。深い悲しい思いの発する方向へ急いだ。
その思いは、川の方から発せられていた。エレーナは、川のそばまで飛んで来た。
だが、遅かった。
エレーナが到着した時、既に慎一は濁流に飲まれた直後だった。
そして、その悲しい思いは、突然途絶えた。
思いが突然途絶えたというのは、発していた人間が何らかの理由で、それを継続出来なくなった
ということ。
つまり、慎一の身に何か深刻な事態が起こったということだ。
気絶したか、あるいは絶命したか、いずれかだ。
エレーナは、慎一が川に流されたと直感した。
彼女は、最悪の事態を想定した。川の上空を飛び、慎一を探した。
しかし、いくら探しても慎一の姿は見つからない。
「そうだ、川下の方へ行けば見つかるかもしれない」
エレーナは、川下へ探しに行った。だが、慎一は見つからなかった。
彼女は、慎一の自宅へ戻った。
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