幸せになろう
「宮原君が大変な事になったのはよく分かったけど、そういうことは、
真っ先に警察か消防に通報すべきなんじゃないの?
それに仮契約とか願い事って何? 言ってる事の意味が全然分からないよ」
「貴方に話すのは初めてですが、実は私、天使なんです」
エレーナは翼を広げて見せた。
「貴方、いったい……」
「今は、詳しい説明をしている時間がありません。とにかく私に協力して下さい」
綾香は訳が分からない。翼の生えた人間など見たことがない。
綾香は最初、エレーナを信じなかった。翼も作り物だと思った。
だが、必死に頼むエレーナを見て、彼女の言っていることが、うそではない気がしてきた。
「分かったわ。何だかよく分からないけれど、協力するわ。
エレーナが嘘をついてるとは思えないしね」
「ありがとう綾香さん。仮契約発動、斉木綾香!」
激しい光がふたりを包んだ。
「えー! 何が起きたの?」
綾香が辺りを見回す。
「綾香さん、慎一さんが無事助かるよう願って下さい。さあ、早く」
「宮原君が無事助かりますように」
やがて、激しい光は消えた。
「本当に、こんなんで助かるの?」
「慎一さんは、助かると思います。
天使は、人間と契約することによって、その願いを叶え、幸せを与えることが出来ます。
でも、天使は自分の願いを叶えることは出来ないんです。
だから、貴方に願い事の代理をしてもらったんです。
私と慎一さんは、そういう協力関係なんです」

 夜が明けた。やがて、警察から連絡が入った。
慎一が見つかったとの知らせだった。
エレーナと綾香は、慎一が搬送された病院へ向かった。
慎一は、病院のベットで寝かされていた。
「慎一さん」エレーナが呼びかけたが、反応は無い。
慎一は、意識を失っていた。
医者が病室に入ってきた。
「ご家族の方ですか?」
「はい」
「意識を失っていますが命に別状はありません。少し時間はかかりますが、いずれ戻るでしょう」
エレーナと綾香はそっと胸をなでおろす。
「ただ……」
そう言いかけて医者は、厳しい表情になった。
「後遺症が残るかもしれません」
「後遺症って?」
エレーナが聞き返す。
「宮原さんは、頭を強打しています。
恐らく流されたとき、川底の岩で頭を打ったのでしょう。
記憶喪失になっている可能性があります」
「そんな……」
エレーナは、頭の中が真っ白になった。
「大丈夫よ、エレーナ」




< 30 / 133 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop