幸せになろう
激しい光の柱が発生し、願いが一瞬叶ったかのように見えた。
だが、その直後に突然慎一が苦しみだした。
「頭が痛い。すごく痛い、頭が割れそうだ!」
慎一はもがき苦しみ、そのまま気絶した。
エレーナは、願いを叶えるのを中止し、慌てて綾香と共に慎一のそばに駆け寄った。
「慎一さん!」
慎一は、気を失い動かなくなった。

 「願い事で記憶を取り戻す方法は、ある程度戻りかけた人には有効です。
但し、多少苦痛を伴いますが。
しかし、完全に記憶喪失状態で行うのは、すごく危険です。
無理に記憶を取り戻させようとすると、脳そのものや精神までも破壊する危険性があります。
慎一の記憶を取り戻させたいという、エレーナの気持ちはよく分かります。
でもその焦りから、貴方は慎一をすごく危険な目に遭わせてしまったのですよ」
イザべラ幹部は、エレーナを注意する。 
「幸い、すぐに願いを叶えるのを中止したので、慎一は気を失っただけで済みましたが……」
イザべラ幹部は静かに溜息を吐いた。
「慎一さんは、私のせいで……」
落ち込むエレーナ。 
「エレーナ、天使の力は決して万能ではありません。私達にも出来ない事はあるんです。
今は、慎一が自然に記憶を取り戻すのを待つのです。絶対に焦ってはいけませんよ」
イザべラ幹部は念を押した。

「慎一さん、ごめんなさい。本当にごめんなさい」
エレーナは、眠ったままの慎一の手を握り、早い回復を願った。
それからもエレーナは、毎日見舞いに行った。
綾香と夕菜もちょくちょく来てくれた。
やがて慎一は意識を取り戻した。
「エレーナさんだったよな。どうして君は毎日見舞いに来てくれるの?」
「慎一さんは私の事、何も覚えていないんですね」
「どうしても思い出せない」
慎一は、無理に思い出そうとすると頭に激痛が走った。
そんな日々が続いた。
 やがて退院の日が来た。
結局、慎一は記憶が戻ることなく退院した。
退院の当日、エレーナ、綾香、夕菜が付き添った。
家に帰ると、また両親が、ふたりにきつく当たり散らした。
エレーナとの生活を取り戻した慎一。
「あの、エレーナさんは、どうしてそこまで俺の世話をしてくれるの?
それに、君がいつも俺の家にいるのはどうして?」
「覚えていませんか? 慎一さんが私と始めて出会った時のことを。
貴方は、ヤクザの組織に追われていた私を助けてくれたんです」
エレーナは、慎一に助けられた時の事を話した。
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