幸せになろう
和江もエレーナに帰ってもらうように即す。
「あの、私家族いませんから」
天使のエレーナには家族など最初からいない。他の天上界の天使も皆同じだ。
「だったら、なおさら信用できない。お前がその女と縁を切らないなら、俺が追い出してやる!」 
総一郎は、エレーナの腕をつかんで家から追い出そうとした。
慎一は、総一郎の足にしがみついた。
「以前もこんなことがあったな。確か、姉さんの葬式もそうだった。
父さんと喧嘩したとき、俺を激しく殴った。
また俺の大切な人を奪う気かよ。姉さんだけでなく、エレーナまで奪う気か。
エレーナは、川に落ちた俺を探し回ったそうだ。
そして、いろんな人に協力してもらって、ようやく俺を助け出したという。
エレーナがいてくれなかったら俺は、死んでた。
その間、父さん達は何をしていた? おそらく、何もしなかったのだろう。
父さんは、息子の命の恩人までも追い出す気かよ」
「ちっ、勝手にしろ!」
総一郎は、エレーナを突き放した。
「慎一さん、怪我はありませんか?」
エレーナが心配する。
「たった今、全て思い出した。
父さんに殴られたとき、俺は全てを思い出した。
あの事故の日、俺が三浦の葬儀に出掛けたを見計らって、父さんは君を追い出したんだ。
俺は、君を探しに行った。だが、いくら探しても君は見つからなかった。
姉、三浦、そして君まで失った俺は、激しい喪失感に襲われたんだ。
そのうち、川のそばで姉に会った。
姉は、俺が話し掛けても何も答えなかった。そして姉はそのまま遠ざかっていった。
その時は幽霊だと思った。でも、今考えれば、それは幽霊ではなく幻だった。
俺は、姉の幻を追いかけていった。気がつくと、川に落ちて濁流に飲み込まれた。
そのまま意識を失い、目が覚めると、病院のベットに寝かされていた」
エレーナは、慎一を抱きしめた。
彼女の目から涙があふれ出て、止まらなかった。
「記憶が戻ったんですね。本当によかった。私はあの時、川から離れた場所にいたんです。
あの時感じた、深い悲しみは、やはり慎一さんのものだったんですね」
 
 俺の記憶が戻ったことは、綾香にも伝えられた。
「エレーナに頼まれて、訳も分からず仮契約をして、宮原君の無事を願った。
でもエレーナが天使だって聞いてびっくりした。本当に天使っているんだね。
エレーナ、よかったね。宮原君の記憶戻って」





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