幸せになろう
慎一とエレーナの間には、しだいに距離ができていった。
だが、慎一はそれに気づかなかった。
「最近慎一さんは、私を全然頼ってくれない。もっと頼ってほしいのに。
私は、慎一さんに必要とされていないのかな。このまま、天上界に帰ろうかな」
エレーナはそう思った。

 夕菜が来てしばらくたったある夜の事だった。
「慎一さん、少しお話してもいいですか?」
エレーナが慎一の部屋に来た。
「最近、慎一さんは何でもひとりでやろうとして、私を頼ってくれません。
どうして私を頼ってくれないんですか?もっと私を頼って下さい。
私は、慎一さんを幸せにするために、ここにいるんです」
エレーナからしてみれば、契約者を幸せにする役目が果たせないのは不本意だ。
「俺は、自分の問題は自力で解決したいんだ。
誰かに頼らず、自分で努力したいんだ。
確かに、天使の力を喜んで頼る人もいるだろう。だが、俺はそうはしない。
自分で努力もしないで、誰かに与えられた幸せなんて、そんなの価値ないよ。
自分の幸せは自力でつかみ取るもんだ。 
もし、それでだめだったら俺はあきらめる」
慎一の答えは意外だった。
「実は俺、子供の頃いじめに遭った。
幼稚園から中学までずっと。
でもいじめられていた時は、毎日々生きることだけで精一杯で、誰かに助けを求めることなど
考えつく余裕もなかった。
エレーナと出会ったばかりの頃、何で俺が一番苦しかったときに助けに来てくれなかったんだ、
今更来ても仕方ないのにって、君を逆恨みした。
でも、今はこう考えるようになった。
もしあの頃、エレーナに助けられていたら、俺は君に頼ってばかりの
今よりもっとだめな人間になっていたと思う。
だから、今はこれでよかったんだ、あの頃、君と出会わなくてよかったんだって思うんだ」
慎一は、静かに過去を振り返る。
「慎一さんってそんなふうに考えていたんですか」
「君と一緒にいることに意味があるんじゃないか。
だから俺は、君と過ごす時間を大切にしたいんだ」
「私は、慎一さんに必要とされていないと思っていた」
エレーナは、少し安心した。
「そんなふうに思ったこと、一度もないよ。
エレーナが来てから、俺は以前より幸せになれた。
子供の頃の悪夢も見なくなったし、いろいろと助けられた。エレーナのおかげだよ。
だから俺達の関係は今のままでいいんじゃないか」
「慎一さん」


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