幸せになろう
あの人には安心して貴方のことを任せられるわね。 
ところで慎一、エレーナさんと全く口を利いていないそうじゃない。どうして?」
慎一は黙り込んだ。
「エレーナさんは、私の大切な友達なの。仲良くしてあげてね」
仲良くしてあげてねか……
慎一は昔の事を思い出した。
 以前、似たようなことがあった。
慎一がまだ子供の頃、幼なじみの斉木綾香と初めて会った時の事だった。
さやかはあの時、確か綾香にこう言った。
「慎一は私の弟なの。仲良くしてあげてね」
今度は慎一が言われる立場になった。
慎一には、さやかと名乗る人物は、見た目、性格、しかも料理の腕前までも
亡き姉を忠実にトレースしたように映った。
天上界との一件の後、極度の人間不信になっていた慎一。 
やっぱりこの人は、姉さんなのか?
俺は、この人を信じていいのだろうか?
確かに、天上界や天使が存在したり、慎一自身もマイナスエネルギーなどという、
得体の知れない物を持っている。とにかく現実離れしたことばかり起きている。
死んだ人が生き返ってもおかしくないかもしれない。
 さやかは、さらにこんな事まで言い出した。
「慎一、エレーナさんから聞いたんだけど、天上界といろいろあったんだってね。
マイナスエネルギーをかなり溜め込んでいるんだってね」
「突然何を言い出すんだ」
「私は、貴方が心配なだけ。エレーナさんの話によると、貴方が天使達に浄化を強く願えば、
消えるそうじゃないの」
さやかは、マイナスエネルギーを浄化するように慎一を説得する。
「もう、天上界とはかかわりたくない。
天上界は、俺を危険人物として殺そうとまでしたんだ。天上界の言うことは、信用出来ない」
「私は慎一に早く楽になってほしいから言っているんじゃない。
全部自分一人で抱え込まないで。貴方には、私やエレーナさんがついているじゃない。
エレーナさんは、貴方のことすごく心配しているよ」
「だが、エレーナも天上界の一員だ」
「エレーナさんは悪くないでしょう?」
「そんな事言われたって……」
絶対おかしい。この人は、なぜそこまでエレーナの肩を持つんだ?
マイナスエネルギーの事まで持ち出してきて。
慎一は、ますますさやかのことが分からなくなってきた。
さやかは、エレーナとやけに仲が良い。
二人は友達だと言っていたが、何かあるんじゃないか。
慎一は、ある事、ない事、全て疑った。

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