幸せになろう
 そして最後にサラは会場の人達にこう言った。
「みんな、私の歌を聴いてくれてありがとう。
私の歌でみんなを幸せにしたいです。これからも応援宜しくお願いします」
会場から大きな歓声が上がった。
「歌でみんなを幸せにか……」
慎一は、サラの言葉が気になった。

 その数日後、サラが遊びに来た。
「すごいライブだったな」
「慎一さん、テレビ見てくれたんだ、嬉しい」
「どうしてテレビに出ていたんですか?」
エレーナが聞く。
「大学の学園祭ライブで歌ったら、たまたま芸能関係者の目にとまって。
そのままアイドルデビューしちゃった」
サラは屈託のない表情で答える。
「でも、あんなに天使の力、使いまくったらまずいんじゃないか?
大学の学園祭でもあそこまでやったの?」
「大学では、そこまでは準備していなかったから普通に歌った。
でも大丈夫、ちゃんとばれないように細工してあるから」
慎一の心配をよそにサラは、余裕だ。
「でも、飛んでいたじゃないか」
「あれは、天井のワイヤーでつるされているように見せかけたから大丈夫」
「じゃあ、どうやって光を発生させたの?」
「あっ、このつえで会場の照明を操作しているように見せかけたの」
サラはライブで使った杖を取りだした。
「ほら、つえの裏にスイッチがいっぱいあるでしょ。
これ、本当に会場の照明の操作が出来るのよ。だから、誰かに疑われてもこれでごまかせる」
「しかし」
慎一は、納得いかなかった。何かひっかかるものを感じたからだ。

 その後サラは、あっという間にトップアイドルになってしまった。
それからも彼女は、時々宮原家に遊びに来た。
能力を使ってアイドルを続けるサラに疑問を感じていた慎一。
「君は、天使の力で自分の歌を聴く人達を幸せな気持ちにさせている。
だから君は売れっ子なんだろう。でもあのやり方は反則だろう。
自分で努力して売れっ子になったんならともかく、天使の特殊能力を使って売れっ子になるなんて」
「サラは、一見遊んでいるかのように見えるかもしれないけど、
彼女は、歌で多くの人々を幸せな気持ちにさせている。
サラなりにきちんと天使の役目を果たしていると思うよ。
サラのようなやり方でも、人間を幸せにすれば、天上界ではよしとされるの」
さやかの話によると、これも天使の役目のうちだと言う。
人間社会であれば反則行為でも天上界では認められる。

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