幸せになろう
人間と天使には、価値観や幸福観に食い違いがあるのだろうか?
「私はただ、自分の歌で多くの人を幸せにしたいの」そうサラは繰り返した。

 サラは、その後も天使の力を使いまくり、テレビ出演や派手なライブを繰り返した。
「このままでは、いずれサラの正体がばれる。
サラは有名人だし、悪い人に狙われるかもしれない。
だから、お願いだ。
彼女の正体が絶対ばれないように、そして危険に遭わないようにしてくれ」
慎一の中で、サラと、かつて黒崎に傷つけられたエレーナの姿がダブった。
「慎一さんは、そこまでサラさんを気遣っているのですね」
慎一がエレーナに願ったおかげで、サラは正体がばれることも危険にさらされることもなかった。

 そのうち、よその地域で大地震が発生、多くの人々が被災した。
サラは、災害復興支援ライブやチャリティーライブを続々と行った。
「私の歌で被災した人達を幸せにしたい」
だが、慎一はそんなサラに疑問を感じた。
「サラはいつも歌で人を幸せにしたいと言っている。
でも、俺は疑問だ。歌で人を幸せに出来るとは思えない」
「でも、サラなりに頑張っているのよ。それを認めてあげたら」
さやかはサラを擁護する。
「じゃあ、歌や音楽で、死んだ人を生き返えらせられるか?
被災した人達は、大切な家族も、財産も全てを失った。
歌でそれを取り戻せるか? 病気や怪我で苦しんでいる人達を救えるか?」
「それは……」
サラは、慎一の現実的な指摘に反論の余地がない。
「宮原君、それはちょっと言い過ぎよ。サラに謝って」
綾香も口をはさむ。
「そうよ、慎一さん。私も言いすぎだと思う」
エレーナからも反論された。だが慎一は、
「サラの歌を聴いた被災者達は、一時的に幸せな気持ちになるかもしれない。
でも壊れた自宅や避難所に戻ったとき、厳しい現実に引き戻されるんだ。
だから、歌では、本当の意味で人を幸せに出来ない。
一時的なきやすめ程度にしかならない。これが現実というもんだ」
と突き放したような言い方をする。
「慎一さんの言う事は正しい。私は間違っているのかな」
サラは自信をなくす。
「サラ、宮原君の言う事は気にしなくていいのよ」
「そうよ、貴方は良く頑張ったわ」
綾香とさやかがサラを励ます。
「サラは、何も分かっていない。
歌で人を幸せにするとか、チャリティーだとか、そういうのは人間のやることだ。



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